戀を手向ける


藤宮守寿の、ぽってりしてない大きな声。

俺にだけ聴こえたはずが、お母さんの口も止まる。同時に遺影が倒れた。悪霊かよ…。


「直矢くん、みっつめのお願い!わたしからちゃんと伝えるからお母さんからは聞かないで!」


悪霊じみたことをしたことにも気づいていない切羽詰まった様子で、触れられない俺に触れようとしてくる。なんだか泣きたくなった。


泣きたい。

藤宮守寿が死んで、すげー悲しくて。


今までで一番。なんつう淋しい一番を残してくれやがったんだよ。

なんで死んだのに、ひとりにしてくれねえんだよ。


「お母さん、お父さん、すみません。…続きは藤宮守寿から聴きます」

「え……?」


ここにいます。

確かにいるんです。

触れられないけど、いつものように笑ってます。

風は感じないみたいだけど、それでもここに、まだ俺の傍にいます。


海に還るってはりきってたのに、俺がいくなって言ったから。


「あの……失礼なことを、すみません。あいつの…骨を、少しだけもらえませんか」

「え……」

「…死んだら海に還りたいって言ってたんです。だから、ちゃんと送り出してやりたいんです。本当にすみません…だけど、お願いします…!」



せめて今度こそ、上手に見送りたい。

誰に非難されても、非常識だと思われても、きみさえ笑ってくれるならそれでいい。


責任はとるよ。

俺なんかの言葉を無視できない優しい存在のためなら、いくらでも。



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