戀を手向ける
「直矢くん。わたし、胡麻饅頭食べたい」
だけどそれは、願っていいものなのか、わからない。
彼女と俺が望むもの。
叶わなかった時、どうしたらいいのか、なんて、考えたくもないから願いたくもない。
「だめだろ、ふつうに。元気になったらやまほど食えば」
「けちだなあ。ふつうってなに?直矢くんにとってのふつうってなに?ふつうなんてないでしょ」
何をそんなに、焦ったような声してんだよ。
「ふつうなんてどうでもいいでしょ……金髪くんにふつうふつうって言われたってなんの説得力もないでしょ」
にっこり。
冬の海。あの時の笑顔じゃない。だけどこれが今の彼女の笑顔。
おそるおそる、その肩を引き寄せた。
あまりの細さに、くるしくなった。
「ぶふふ…頼んでないのにぎゅってしてくれた」
「こういう時、少しくらい黙れねえの?」
「ねえ直矢くん。きみは、大丈夫だよ」
何が、とは聞けなかった。
何であってもその理由のどこにも、藤宮守寿の存在がない気がしたからだ。
副作用に耐えて治療をしても良くなる兆しが見えない。
まるで封が閉じられた狭い箱の中。
それでも笑ってがんばっている彼女に何ができるのか、無情に過ぎていく時間、いつまでも考え続けた。
ふつうなんてどうでもいいでしょ。
出会った頃から、そういう考えかた。だけどそういう考えじゃない人のほうが多いなかで、自分がいるだけで他人が明るく笑って過ごせるように常に考えてきた風紀委員。
俺にできること。
それ以上に、してやりたいこと。
俺がしたいこと。
それは、今までと何も変わらず、できるだけ傍にいたいということだけだった。