戀を手向ける
カーテンと窓を開ける。
「わ…満月…!」
「あんなの出てんのにカーテン閉めとくとかもったいねえよ」
「あんなのって。直矢くん、月を綺麗だと思えるひとだったんだね」
俺のことどういうやつだと思ってんの?けっこう傍にいた時間あったと思うんだけど。
だけどたぶん、こいつのおかげだと思う。
空をじっくり見たことなんて、今まで一度もなかったよ。
「おまえが何て言っても、どう思ってても…俺は藤宮守寿のことが好きだよ」
なるべく優しく。
優しい声で、優しい表情で、言おうと努力した。
前に教室で倒れたときよりも、全校集会で倒れたときよりも、ずっとずっと軽くなった。好きなものも食えないで、好きな場所にはこうなる前に行ききって、…このままだともうきっと彼女が好きなものの話をしてくれることはないんだろう。
それでも、あきらめたくない。
どんな瞬間まで、藤宮守寿のなかの、好きなもののひとつで在りたい。
「直矢くん、ありがとう」
夜風に目を閉じながらつぶやく。
「……」
「わたしは、きみと出会ってから今日まで、幸せだと思わなかった日はないよ」
その言葉は俺にとって、月よりもまぶしくてあたたかいものだった。
なぜか泣きそうになり、それが嫌でどうしようもなくて、何も言葉を返せなかった。