戀を手向ける
ふたたびベッドに下ろすと、彼女はいたずらに片側を開いた。
「ねえ、一緒に寝よ」
「…え、嫌」
「そう言わないでよ。直矢くんが隣にいたらわたしもぐっすり眠れるんじゃないかって、直矢くんも思うでしょ」
そんな自惚れてねえんだけど。
ぶふふ、と笑う。力はなく、いびつで、それでいて無理のない優しい笑み。
仕方なく隣に入り込む。
何してんだろ、とすぐに飛び出したくなった俺の腕を、縋るように掴む手が、かすかに震えていた。
「直矢くん…実は最近ね、眠るのがこわかったの。明日が来なかったらどうしようって…もう直矢くんに会えなかったらどうしようって。弱虫でしょ」
「弱くねえだろ。小さいころからずっと、がんばってんだから」
間髪入れずに否定すると、またぶふふ、と笑った。何かを押し殺すような笑い声だった。
「明日になったら、俺が起こしてやる。だから…眠っても大丈夫だよ」
寝ないと身体がもたなくなる。
負けんなよ。
できることは、やっていこうよ。大丈夫になれるように、俺も考えるから。
「ありがとう。おやすみ、直矢くん」
「…おやすみ、藤宮守寿」
この言葉を言い合うのは初めてだった。
俺が言った恋の言葉よりずっと、優しい響きのように思えた。
起こす、なんてかっこつけといてどうしようもねえけど、次の日寝過ごして結局問題児扱いされることになる。
あいつはそんな俺を楽しそうに、力ない笑みで優しく庇った。