戀を手向ける
藤宮守寿の危篤は、夏休みに入ってすぐだった。
一昨日ついに、勝手に胡麻饅頭を食べさせたのが悪かったのかもしれない。気を失うように横たわる彼女を見て、後悔しないように必死だった。
もっと何かできることはあったんじゃないか。
今何ができるのか。
…これで、本当に最後なのか。
浮かんでは消えない無数の問い。誰に聞いたら答えてくれるのか、わからなかった。
よく笑う藤宮守寿。
楽しい学校生活を自分でもみんなにも送ってもらいたいと思っていた藤宮守寿。
口煩くて、煩くて、だけどその明るい声が好きだった。
風になびく茶色い髪を目で追いかけるか、閉じられた目を囲うまつげを見るか、本当はよく迷ってた。
好きだと言っていたもの、うんざりするほどたくさんあったのに、全部憶えてる。
直矢くんって呼ぶときの跳ねたような口調も、うれしそうな笑顔も、きみは大丈夫だと言ってくれた自信満々な藤宮守寿の生き様も、俺のすくう宝物だった。
まだ3年の教室来れてないだろ。
2年の時と変わらず、おまえの席は教室の真ん中で固定されてるんだよ。
みんなが藤宮守寿の存在を望んでる。
応えてやらなきゃだめだろ。
……だけど本当は、きみはいつだって、何に対しても誰に対しても、たとえ、病気に対してだって、真っ直ぐに応えようとしていたことを知っている。
そういうところが好きだった。
何もかもが好きだった。
藤宮守寿がいなくなったら、俺は、何を好きになったらいいんだよ。
情けない言葉が全身をめぐる。
藤宮守寿。
待って────。
どの言葉も、最後の瞬間が過ぎても、口に出すことはできなかった。
藤宮守寿はなんとか日付けを跨ぐまで懸命だったけど、まぶたを開けることは一度もなかった。
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