戀を手向ける
学校へ行くと藤宮守寿の席はちゃんと教室の中心に君臨していた。
クラスメイトのなかではその場に持ち主がいる設定らしく、登校してきたやつらから順に「おはよう、守寿」と声をかけていく。
確かに風紀委員だった彼女はクラスで一番早く登校してくるから、クラスメイト全員と朝のあいさつをしていた。
「みんな優しい…!おはよう…!あ、七重が揺れるピアス付けてない…!えらい!トウシバくんは怪我してない!昨夜は喧嘩しなかったんだ、えらい!」
本人は俺の隣で感動しながらそうはしゃいでいる。俺にしか見えないし聴こえないんだな。ただの幽霊じゃねえかよ。
どうしたら成仏すんのかな。俺に憑いてんのかな。除霊とかすればいいのか?そういうのってどれくらい金かかるんだろ。
「直矢くん、今わたしのこと幽霊扱いして悩んでるでしょ。顔に出てるよ」
うるせえなこいつ。話しかけてくんなよと目で訴えたけどそれには気づかないふりをして「お祓いはいやだなあ。悪霊みたいだもん」「というかべつに良くない?」「いっしょにいられるんだから良くない?」と同意を求めてくる。
こういう、自分の考えてることは基本的に正しい、みたいな感じも最初はすげー嫌いだったし今でもめんどくせえなって思う。とりあえず無視。
「1時間目は数学だね。寝ちゃだめだよ」
隣でそんな話しかけられたら寝られるかよ。
「わからなかったら教えてあげるね」
「いらねえ。ほっとけ」
「やっと返事してくれた。でもしーだよ。みんなにはわたしのこと、見えないみたいだもんね」
「……」
そんな淋しそうな顔するくらいなら、さっさと成仏できたほうが良くねえか。
────「いくなよ」
あんなこと、思わなきゃよかった。