もふもふ後宮幼女は冷徹帝の溺愛から逃げられない ~転生公主の崖っぷち救済絵巻~
蓮華宮は後宮内に建つどの宮よりも広く豪奢である。五代前の皇后が愛した宮であり、先帝のころは皇太后が暮していた。その皇太后も政権争いの折りに帰らぬ人となっている。
宮の入り口には女官(にょかん)が一人、佇んでいる。愛紗の顔を見ると、深々と頭を下げた。
「映貴妃にご挨拶したいの」
「確認して参ります」
しかし、女官が歩き出すよりも早く、愛紗は十然の腕からひょいと飛び降りる。猫のように身軽に着地した愛紗は女官の横をすり抜け、宮の中へと走り出した。
「愛紗様っ!?」
愛紗は女官の叫び声など耳にも入っていない。小さな足で前へと進む。女官が止めようにも小さな身体は身軽で、ちょこまかと動くものだから腕の中に収まらないのだ。
人前に出ることを嫌う映貴妃のことだ。許可を求めれば、断わられることは間違いない。もともと強行突破するつもりであった。皇帝の寵妃と、皇帝の養女。どちらも後宮での地位は変わりない。しかし、愛紗はまだ何をしても許される五歳の幼な子なのだ。それを利用しない手はない。
五歳の幼な子には少し重い扉を押し、小さくできた隙間からするりと入る。十然はその背を笑いを押し殺しながら見送った。十然も同じように続けば、一人だけ叱責されることは間違いないからだ。
保身のためにオロオロとして見せるのが、十然の処世術である。
愛紗持ち前の勘のよさで、映貴妃の居そうな場所に向かう。寝所と思われる場所に辿り着いた。
寝台を閉ざす紗(うすぎぬ)の向こうに影が見える。
「うるさい……」
少し低めの声が小さく呻いた。
宮の入り口には女官(にょかん)が一人、佇んでいる。愛紗の顔を見ると、深々と頭を下げた。
「映貴妃にご挨拶したいの」
「確認して参ります」
しかし、女官が歩き出すよりも早く、愛紗は十然の腕からひょいと飛び降りる。猫のように身軽に着地した愛紗は女官の横をすり抜け、宮の中へと走り出した。
「愛紗様っ!?」
愛紗は女官の叫び声など耳にも入っていない。小さな足で前へと進む。女官が止めようにも小さな身体は身軽で、ちょこまかと動くものだから腕の中に収まらないのだ。
人前に出ることを嫌う映貴妃のことだ。許可を求めれば、断わられることは間違いない。もともと強行突破するつもりであった。皇帝の寵妃と、皇帝の養女。どちらも後宮での地位は変わりない。しかし、愛紗はまだ何をしても許される五歳の幼な子なのだ。それを利用しない手はない。
五歳の幼な子には少し重い扉を押し、小さくできた隙間からするりと入る。十然はその背を笑いを押し殺しながら見送った。十然も同じように続けば、一人だけ叱責されることは間違いないからだ。
保身のためにオロオロとして見せるのが、十然の処世術である。
愛紗持ち前の勘のよさで、映貴妃の居そうな場所に向かう。寝所と思われる場所に辿り着いた。
寝台を閉ざす紗(うすぎぬ)の向こうに影が見える。
「うるさい……」
少し低めの声が小さく呻いた。