さよならは、優雅に微笑んで
冷めた眼差しで何気なく眺めた周囲に、自分と同じ黒髪を見つける。マリウスが「妹の晴れの日だからね」と穏やかに、ふいと顔を背けたその眼鏡姿が兄のベルナルドであることを肯定する。
仲が悪いわけではない、それでも決して仲良しとは呼べない関係性の兄が卒業式だからといってこの場にいることが信じられずに戸惑うと、マリウスが「相変わらず遠慮がちな兄妹だね」と笑った。そんなことを言うのは彼くらいのものだ。そのような性格であるのなら、こんな舞台で立ち向かう選択肢など選ばなかったはずだ。
曖昧に微笑み返して、エドナは横道に逸れた話を引き戻す。
「先程は立会人のお話が出ていましたが、」
「うん。まあこれだけ傍聴人がいれば必要ないだろうけど」
ざっと見渡された観衆が各々目を逸らす。彼らが見ているのは興味本位と、長い物には巻かれるべく判断材料にするためであり、巻き込まれたくないという感情がありありと漂っていた。
「お言葉ですが、殿下を第三者と呼べるかどうか……」
「そう? わたしは比較的公正なつもりだよ、君とも彼とも、両方と親しいつもりだから。少なくともギルの用意した証人よりはよっぽど冷静で公正じゃないかな」
マリウスは「それに、」と続ける。
「王家としても、正式な婚約を当事者の片側による一方的な破棄宣言……というのは見過ごせないかな」
端正な顔立ちでの微笑みは優美でありながら見るものを威圧する効果を持ち、跪いたままのギルバートの顔からは血の気が引いていく。
「そういった意味では、どちらかといえば君寄りであるからこそバランスがいいとも言える。だけど、そうだなぁ……むしろはっきりエドナ嬢の弁護人に回った方がよさそうかな」