俺様社長は奥手な秘書の初めてを奪う
その晩、どうしても一人で晩を明かす気力がなかった私は、気を紛らわせるために美晴をボロ家に招き寄せた。

「……というわけなの、美晴」

事のいきさつをすべて話し終えると、彼女は手に持っていた缶ビールをミニテーブルにカーンッと置いた。

「ここは引き際だよ、芽衣」

彼女の直球の言葉に、グッと息を呑む。

(やっぱりそうだよね)

美晴は憐れんだような眼差しを私に向けながら、真剣なトーンで話し始めた。

「実家がかなりヤバい状況で、結城家具だと会社にもバレて……芽衣には悪いけど、こうなることは時間の問題だったと思う。それに藤堂快は、業界でもかなりモテるし、女たらしって噂じゃない。
現に芽衣にもすごいちょっかいだしてるし、もしかしたら体を狙ってる可能性だって否定できないよ」

「うん……分かってる」

口に含んだビールが、いつもの倍苦く感じる。
美晴の言ってることは、めちゃくちゃ正しい。
客観的に考えどの方向から見ても、私が秘書に留まることは絶対に正しくないのだ。

(私を秘書に選んだ藤堂快の信頼も絶対に落ちる……それでは、本末転倒だ)

またジワッと涙が滲んできた。

(これは何に対する涙なんだろう?)

きっと今までみたいに藤堂快が遠い存在だったら、彼のために辞めなくちゃと決意できていたのかもしれない。
でも最近急に彼と距離が近くなったせいで、誤魔化していた感情が『憧れ』の一言では片付けられなくなってしまった。

(私、まだ藤堂快の傍にいたいんだ)

そう認めたら、少しだけ心が軽くなった。
私は厳しい表情の美晴を見つめる。

「芽衣……」
「私、藤堂快のこと……」
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