俺様社長は奥手な秘書の初めてを奪う
(好き、めちゃくちゃ好き……ずっと好きだったんだ)

言葉にするより先に涙がこぼれる。
一度こぼしたら堰を切ったように溢れてきた。

きっと初めて会った時から、私は彼に魅了されてしまったのだ。
追いかければ追いかけるほど好きな気持ちが強くなって、
必死で近くにいられる方法を考えて、真面目秘書を徹していた。
本当は藤堂快と距離が近くなっていくことを、心の奥で嬉しく感じていた。

(10年。もうストーカーと思われても仕方ないレベルだ)

泣きじゃくる私を、美晴は優しく包み込んでくれる。

「芽衣はこの10年できることは全部やったし、ちゃんと藤堂快と一緒に働けたんだからすごいよ。
私はあんたの頑張りを全部見てきたし、認めてるからさ……これからは自分のために、いい人と幸せになって」
「うん……ありがとう、美晴」

胸の傷は、彼女の優しい言葉と体温で癒されていく。

(今までやったことは無駄じゃないし……次は家のために、頑張らないと)

そうやって言い聞かせて、時間が経てばきっと藤堂快への思いを薄くなるだろう。
彼はクビにすることはないと言ってくれたけど、私は『結城家具』も守っていかなくちゃ。

(出張が明けたら、退職届を出そう……)

そう胸に誓いながら、私は美晴の華奢な体をギュッと抱きしめた。
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