俺様社長は奥手な秘書の初めてを奪う

とその時、「ふふっ」と向かい側から笑い声が聞こえてきて、私は顔を上げた。

「前回一緒に来た時はまだルイと友達じゃなかったから、せっまいゲストハウスに泊ったわよね、快」

「ああ、あと一カ月待てばスイートに泊れたのにな」

華さんはご機嫌な様子で社長に思い出話を聞かせている。
社長も嫌がる素振りはなく、懐かしむように笑顔で受け答えをしていた。

(社長と華さん、一緒にパリに行ったことあるんだな……しかもルイさんと出会う前に)

少しだけモヤッとするけれど、すぐにその気持ちを打ち消す。

(せっかくパリに来たんだから、あれこれよけいなことを考えるのをよそう! 私はパリを楽しむ!)

それに、CLBKでの大仕事がこの視察で最後になる可能性もある。
場所がパリであろうと、私は社長に与えられた仕事を完ぺきにこなし、彼へ最後の恩返しをしたいと思っていた。

(とりあえず今は、目の前のクロワッサンを美味しく頂くことにします!)

気合をいれてそれを頬張っていると、クスクスと笑い声が聞こえてきた。

(ん?)

「そんなに美味いか? 俺のもやるよ」
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