俺様社長は奥手な秘書の初めてを奪う
社長はそう言って、私のお皿に自分のクロワッサンを二つ置いた。

「社長も召し上がってください」
「今日もみっちり働いてもらうからな。体力つけておいてもらわないと困る」

いじわるな笑顔を浮かべる社長に、うっ……と喉が詰まる。

(この笑顔は本気(マジ)の時。一体フランスでどんな無理難題を?)

「で、ではお言葉に甘えて……頂きます」

ビクビクしながらパンをかじると、バターの甘みが口いっぱいに広がる。
その圧倒的な美味しさに再び感動しながら頬張っていると、社長がフッと顔をほころばせた。

「追加で頼むか?」

「え⁉ 遠慮しておきます。これ以上食べたら次のお昼御飯が美味しく頂けませんから……」

「じゃあ、お楽しみはまた昼飯の時ってことか……残念だ」

(ん……? それは一体、どういう意味?)

社長の言葉を不思議に思っていると、黙っていた華さんは笑みを浮かべて私を見た。

「芽衣ちゃん、今日は初対面の方に沢山会うから大変だと思うけど、私も出来る限りサポートするからね。困ったら声をかけて」
「華さん……ありがとうございます」

彼女の心強い言葉に、自然と笑顔がこぼれる。

(華さんはずっとルイさんのホテルで働いてたし、たくさんお知り合いもいるだろうから頼もしいな)

私のパリ視察が決まってからというもの、華さんとは業務連絡以外まったく話していなかった。
だからこそ、パリに来て同僚の一員として見てくれたことが嬉しい。

(仕事として気持ちを切り替えてくれた華さんには感謝しなくちゃ。
このまま良い状態でいられますように……!)
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