俺様社長は奥手な秘書の初めてを奪う
そしてついに、パリ視察が始まった。
初日からパリに点在するルイさんの経営するホテルを三か所をめぐり、宿泊所に戻ってから本家のデザインチームとCLBKのチームで意見交換を行う。
私の仕事は主に現場で書記を務め、自分の部屋に戻ったら簡易的な資料を作成し、まとめるというもの。

タイトなスケジュール故に睡眠時間を削らなければいけないのと、フランス語を訳さなければならないので、日本にいる時よりもかなりハードワークだ。

(羊が一匹、羊が二匹……羊が……)

「芽衣、起きろ」
「はっ‼」

耳元で聞こえた社長の声に、心臓が飛び上がる。
パッと目を開けると、視界いっぱいにクラシカルなホテルのロビーが広がっていた。
スーツを着た大勢のフランス人とCLBKチームが笑顔で談笑しているのが見える。

(そうだ、これから会議!)

「よだれ拭ってから合流しろ」
「申し訳ありません……」

苛立った社長を見送りながら、ハンカチで口元をぬぐう。

(睡眠2時間はしんどい。これから会議なんて耐えられるかな……)

ただいま、パリ視察二日目の夕方。
老舗高級ホテルを三軒巡り、宿泊ホテルに戻って来たところ。
今日も『オテル・ド・シェヴァリエ』のデザインチームとの意見交換が行われる予定で……。

(スカッと目薬、差しておこう!)

ポケットに手を入れていると、背後から「すみません」と低い声が聞こえてきた。

(ん?)
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