俺様社長は奥手な秘書の初めてを奪う

「……は?」

(言った。ついに言ってしまった……)

社長の心底驚いた表情。
そりゃあそうだろう……彼にしてみれば『やる気満々秘書がなぜ?』だ。
気まずくなってうつむきがちになると、頭上から小さなため息が落ちてきた。

「ついて行けなくなった……その言い方じゃ、俺が何か問題を起こしたような言い方だな。
お前を不快にした理由を教えてくれ」

鋭い質問に、鼓動が跳ねる。

(理由……理由は……)

「ひ、人使いが荒いところです……!」

「!」

ポンッと頭に浮かんだ理由を、とっさに口に出す。

(そうだ、この理由でいこう)

「休日出勤は当たり前だし、彼氏とデートしてる間も関係なく呼び出されるし、業務の量もものすごいし。こうやってパリにいる時だって拘束されますし……」

社長は難しい顔で私を見つめる。
胸がズキズキと痛むけど、私は話し続けた。

(本当の理由を述べるより、絶対に波風を立てられずに辞められる)

「私も、女性としての幸せを歩みたいんです。だから……辞めさせてください」

やけに最後の言葉が、騒めく街にはっきりと響いた。

(全部、言った……)

社長はしばらく私を見つめ……クスリと小さく笑った。

(えっ……)

「お前の気持ちはよく分かった。そこまで言うなら辞めてくれていい」
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