俺様社長は奥手な秘書の初めてを奪う

『ゆっくり話せるところに移動しよう』。

社長に連れられて、私はエッフェル塔のすぐ近くにある公園に移動してきた。
運よくベンチが開いていたので、隣り合って腰かける。

「……まだ伝えてなかったが、ドレスすごく似合ってるな。メイクも。
芽衣はいつもそれぐらい堂々としてていいよ。綺麗なんだから」

社長は落ち着いた声でそう言って、かすかに笑った。
それは社交辞令としてではなく、本当に思って言ってくれているような口ぶりで胸が温かくなる。
華さんの姿と比較した後だから、余計にだ。

「ありがとうございます……」

私がそう返すと、彼はふいに真剣な眼差しを向けた。

「本題に移るな。まず昼にうちの社員とデートしたという話は、まったく違う。
彼女にはフランス人のデザイナーの友人を紹介してもらった後、買い物に付き合ってもらっていた」

彼はそう言って、私に小さなショッパーを差し出した。

「これ……って」

ひと目で分かる。中身は有名なマカロンショップのロゴが入った長方形の箱だった。

(大行列ができていて、泣く泣く諦めたお店……)

「マカロンが食いたいとかメモに書いてあったから、一応買っておいた。1人で並ぶのはさすがに辛かったから、彼女に申し訳なかったが付き合ってもらって……お前に自由時間をほとんど与えていなかったし」

そう言った社長は、気まずそうに私から視線をそらす。
濃厚な1年を過ごしてきて雰囲気で分かる。
彼が珍しく照れていると……。

「あ、ありがとうございます……マカロン、まだ買えてなくて……」

(……っ、こんな寒い中並んでくれたんだ……あの社長が……?)
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