俺様社長は奥手な秘書の初めてを奪う
病室に足を踏み入れた瞬間、息を呑む。
おじいちゃんは背筋をまっすぐ伸ばし、ベッドの上に座って私たちを見ていたからだ。
(おじいちゃん……?)
快が会釈し、私もとっさに頭を下げる。
「迷惑をかけてすまなかった。先ほどのお前たちの会話はすべて聞いていたから特別話すことはない。……結城家具は、お前と芽衣に受け渡す」
(えっ……)
突然の譲渡宣言に目を見開いていると、快が眉を寄せ一歩前に出た。
「本当によろしいのですか。なぜ急に気が変わったのです?」
「守に最後まで期待していた自分が馬鹿らしくなっただけだ。それにこんな体じゃ、わしがどうこうすることもできない。諦めた」
おじいちゃんは吐き捨てるようにそう言って、シッシッと私たちを手で追い払う。
「話は以上だ。出て行ってくれ」
「……っ」
(本当にこのままおじいちゃんの気持ちを置いてきぼりにしていいの……?)
モヤモヤとした気持ちが心に渦巻いていると、快は真剣な瞳でまっすぐおじいちゃんを見る。
「賛同して下さりありがとうございます。では……その件に関して、早急に守さんと進めさせて頂きます」
「!」
はっきりとそう告げた快に、おじいちゃんは視線を合わせないまま辛そうな顔で口をつぐんだ。
(おじいちゃん……)
快はひとつ息を吐き、もう一度おじいちゃんを見る。
「最後に一つ。僕の亡き父もあなたの会社と一緒にやっていけることを嬉しく思っているはずです」
(え……)
おじいちゃんがわずかに目を見開き、私もつられて息を呑む。
「僕の父の実家は結城家具の近所なんです。幼い頃、よくショールームに遊びに行かせていただいていたようで、亡くなる前に何度か思い出話を聞かされたことがありました」
「なんだって……」
快のその言葉におじいちゃんの顔が苦し気に歪み、私たちは目を見張った。
「おじいちゃん? どうしたの……」
「藤堂って……まさか」