俺様社長は奥手な秘書の初めてを奪う
***

「快、お疲れ様。こっちだよ」

「芽衣」

ようやく彼女と再会できたのは、あれから丸一日後だ。
パリのエッフェル塔の中にある三ツ星レストランの一角に、赤いドレスに身を包んだ彼女と、スーツ姿の白人男性が座っているのが見える。

『はじめまして。CLBKの快です』
『お会い出来て光栄です。さぁ、座ってください』

目の前に座っている彼は満面の笑みで俺たちを見つめる。
アクション映画の撮影監督をしているとは到底思えない、英国紳士の落ち着た佇まいだった。

『今回はご協力頂きありがとうございました。本当にいい味を出してくれて……また機会がありましたら、是非お願いしたいと思っています』

『こちらこそ。我が社の家具を世界最高峰の撮影で使用していただいたこと、嬉しく思っています』

直接的に彼とやりとりを続けてきた芽衣は、穏やかに笑っている。
やっていることは違えど、彼女も俺と一緒でほっとしているのだろう。
というのも、彼が監督した映画がアカデミー賞を受賞し、結城家具が大部分の大道具を提供したからだ。

『芽衣が社長に就任してからというもの、結城家具も勢いが出てきたね』

この前電話で話したルイの言葉が脳裏に蘇る。
芽衣は家業を再建するために燃えていた――その火は三年経った今、最も盛り上がりを見せている。

結城家具は五十億円で我が社に買収された後、元々いた役員をCLBK社員に総替えし経営再建を始めた。高級メーカーの仕入れ先ルートを残しつつ高額品の購買ノウハウを生かして、独自のブランドも設立。二年ほどで黒字化に戻したのだった。

ここまでは俺がかじ取りをしていたのだが……守さんが退任し彼女が結城家具の社長に就任してから流れが変わっていった。医療施設・介護施設と連帯を図り空間プロデュースを始めたり、映画やドラマへの大道具提供を積極的に始めた。ついにはハリウッドからも話がきたということだ。

「はぁーーー、疲れたぁ」
< 216 / 225 >

この作品をシェア

pagetop