俺様社長は奥手な秘書の初めてを奪う
「あれだけ仕事が好きだし、もう二人でいいのかと思ってた」

私がそう言うと、快は微笑んで首を横に振った。

「いや……正直俺は、人一倍家族に強い憧れがある。
だが、お前の実家が落ち着くまでは待とうと思ってた」

「快……」

快は早くに両親を亡くしている。
だから自分が温かい家族を作り、子供の成長を見守りたいと思っているのだろう。その夢を、私のために待っていてくれたなんて知らなかった。

「芽衣は……どうなんだ。お前こそ子供はいらないのかと思っていたが」

(そんなわけない、私だって……)

「結城家具の成功を最優先にしてた。じゃないと助けてくれた快に顔向けできないから」

まずは実家の立て直しだったから。
そのために、自分の時間を随分と削ってきたのは間違いない。

(考えても動けなかったから目をそらしてただけ。
私たちの形であれば、二人だっていいって。でも……)

「私も、快との赤ちゃんがほしかった。ずっと憧れてたの」

そう本音をつぶやくと、なぜだか涙がこみ上げてきた。
自分が心から願っていたことに、今さらながらに気づく。

「芽衣……一旦休憩して、自分の幸せを考えてみてくれないか。
心配はいらない。お前も子供も俺が守る」

快はそう言って、私の頬を撫でる。

(快……)

温かい言葉が体に染みわたって、心から安堵してきた。

「……うん、今ちょうど大きな仕事が落ち着いたところだしね。
赤ちゃん作ろう」

自然と笑みをこぼすと、顔を傾けた快は私の唇を奪っていった。

「じゃあ、さっそくな」

(え……)
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