俺様社長は奥手な秘書の初めてを奪う
横に流された黒髪から覗く瞳はどこまでも澄んでいて、
私の動揺した顔がはっきりと映し出されている。

(何この人、めちゃくちゃカッコイイ……)

瞳だけじゃない。高くて綺麗な形の鼻、薄らピンク色の薄い唇。
怒りが落ち着いてしまうほどに、美しかった。

「今日は学校で大事な講演会があるはずだろ。
俺もお前たちの高校に用があるんだ、一緒に行くか?」

男性は立ち上がり、机の上に乗っていたトレーを持って私たちを見る。

「講演会……?」

なんのこと?

頭の中をはてなでいっぱいにしていると、美晴がガタッと席を立つ。

「行きます! お兄さんと一緒に行きます!」

「美晴⁉」

美晴はニコニコと満面の笑顔を浮かべて、机に散らばった残骸をかき集めて鞄にしまう。

「ほらお兄さんもそう言ってくれてるんだし、学校行こうよ~芽衣」
「ちょ、美晴……」

だからイケメン好きは……心の中で悪態を吐きながら、美晴と男性の後ろをついて行く。

このイケメンが、学校になんの用があるの?

頭二つ分高いところにある端整な顔を盗み見ながら、色々と考えを巡らせる。

よく分からないうちに学校の門に付き、彼は私たちを見て笑った。

「学校も社会も思いきり利用していい女になれ。意味は分かるな?」

「!」

一瞬挑発的な視線を感じて、ドキッと鼓動が跳ねる。
すぐに視線をそらされ、男は手を振りながらさっさと門の向こうに消えていった。

(あんな自信がある人、初めて見た……)

遅れて顔が熱くなって、速くなった鼓動の音はずっと収まらない。


この時は夢にも思わなかった。
私が十年もの間、この男に恋することになるなんて――。
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