俺様社長は奥手な秘書の初めてを奪う
第一章:社長の命令は絶対です
「芽衣、好きだよ」
頬にやわらかい指先が触れ、かすかに肩が震える。
何度目か分からない優しい口づけを受け止めながら、うっすらと目を開いた。
端正な顔の向こう側に見えるのは、星屑のように輝くビルの光と、それに反射した運河……。
七色で彩った観覧車が視界に入り、さほど盛り上がっていなかった気分も少しだけ向上してくる。
(うん、今回は大丈夫そう。このまま、このまま……)
グッと腰を抱かれ、深く唇が重なったその時だった。
ピリリリリ! ピリリリリ!
けたたましくスマホの着信音が鳴り響き、どちらともなく大きく目を見開く。
同時に彼の吊り上がった眉尻が、よけいに上がったのを確認した。
(何このタイミング、さすがに今は無理……!)
着信音に負けじと彼も唇を重ねてくるけれど、遠慮なく『早く出ろよ』と着信音は鳴り響く。
案の定テンションは下落。どちらともなく体を離した。
(やばいでしょ、キスの最中に電話なんて……‼)
ハァーッと大きくため息を吐く彼を横目で見ながら、私は手探りで鞄の中から社用スマホを探し出す。
ディスプレイに表示されている着信元は、もちろん私のボス『藤堂快』だ。
一旦空気を変えるためにゴホンと咳ばらいをし、背筋を伸ばす。
「……お待たせしました、社長」
『今から急ぎでいつものラウンジまで来てくれるか。ルイも一緒なんだ』