俺様社長は奥手な秘書の初めてを奪う
大通りに出てなんとか運よくタクシーに乗り込んだ私は、発車したのを確認し、ようやく肩の力を抜……くことはない。

ひとまずバックから化粧ポーチを取り出し、コンパクトミラーを手の平に乗せる。

ここからが勝負なのだ。

唇を彩っていたピンクのリップをティッシュでぬぐい取り、代わりに薬用リップで保湿。
肩にかかっていた華やかな巻き髪をブラッシングすると、仕事仕様の一つ縛りの真面目アップヘアへ。
そして丁寧に仕上げた濃いめのアイメイクは、念のために持ち歩いている伊達メガネを装着し、なるべく目をくらます。

(ラウンジだし、暗いだろうし……ここまですれば突っ込まれることもないでしょう)

私が直々に就いている藤堂社長はとにかく察知能力が凄まじい。
普段は真面目で従順な秘書で通っているものだから、面倒な質問を受けるのはゴメンなのだ。

失恋に落ち込んでいる暇もなく準備が終え、私は今から初対面を果たすフランスの大手ホテル会社社長、ルイ・シェヴァリエに関して予めまとめた資料を、アイパッドに表示した。
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