小さな恋、集めました【短編集】
別クラスの彼
【夏休み】
クラスが違うって本当に不便。
「教科書忘れたから貸して〜」
「またかよ」
だって、理由なしに会いに行く勇気が私にはないもの。
「怪我や事故に気をつけろよ」
締めの担任の一言でクラスが一気に湧き立つ。
そう、夏休み。
私も浮かれているけれど、気がかりなこともある。
それは夏休み中は彼と会えそうにないこと。
教科書を返しに行く途中、これを返さなければ会える理由になるかな、なんて考える。
そんなことあるわけないけど。
「これ、ありがとう」
「ん」
騒ついている教室。浮ついているのはどこのクラスも同じみたい。
「じゃあ、またね」
「なぁ」
帰ろうとした途端。
予想外の急な呼び止めに、思わず胸がどきりとする。
「夏祭り、誰かと約束ある?」
「な、ないよ」
「……なら、俺と行かねぇ?」
そう言った彼の顔はわずかに紅潮していて、つられて真っ赤になった私が返事をしたのは、わずか数秒後のことだった。