小さな恋、集めました【短編集】
真面目な彼
つんつん。
「……」
無反応。何か面白くない。
つんつん。もう一度。
「……なに」
「暇」
やっと数式を書く手を止めてこっちを見た彼。
眼鏡の奥の瞳がいかにも迷惑そうに細められている。
それに思わずむっとしてしまう。
「暇って……今回の試験危ないんじゃないの」
「別にいつもヤバいもん」
そう言うと彼の眉が少しだけ下がって、ふっと口元が緩められた。
あ、その顔好き。
「でも俺も勉強しないと」
今のは嫌い。バカ。
「……勉強と私どっちが大事なの」
思わず口から飛び出る。
我ながらこれは流石に引いた。
「……ふふ」
けれどそれに怒るわけでもなく微笑んでくれるんだから、敵わない。
「どっちも好きだよ」
そう言って頭にぽんっと乗せられた手のひら。
「……なら許す」
拗ねたような声に滲み出る嬉しさは多分隠し通せてないし、なんならにやける口元も真っ赤な顔も全部彼にはお見通しだろう。
全部好きだ、バカ!