小さな恋、集めました【短編集】
【バレンタイン】
なにが上手くいかなかったのか、少しだけ失敗した手作りチョコ。
少し汚いラッピング。
おまけにそれを落としてしまうという失態。
大好きな彼にこんなものあげられない。
そう思ってお店で別に買ってきたものの。
未練がましく鞄の中にあるのは、失敗だらけの手作りチョコ。
「ね、チョコくれねーの?」
チョコを渡したいからと言って屋上にまで来たけれど。
なかなか踏ん切りがつかないでいる。
はやく、買ったものをあげればいいのに。
渡されることのない手作りチョコが、少しだけ悲しくて。
「おーい、大丈夫か?」
揺れる、ミルクティー。
心配する彼の声に、はっと我に帰る。
そうだ、ちゃんと渡さなきゃ。
「はいっ……! これ……」
取り出してから気がついた。
私の手元には、一目で手作りだとわかるラッピング。
彼の髪とお揃いの、ミルクティー色。
「ご、ごめん! これは違うのっ!」
渡す前に焦ったせいで間違えてしまった。
新しいチョコと交換するために、手作りチョコを持ったまま鞄に手を伸ばす。
「待てよ」
でも、その手は彼によって阻まれてしまって。
「わざわざ作ってくれたんだろ?」
俺の髪とお揃いじゃん。
そう言って涙目の私に微笑みながら、失敗したチョコを口に頬張る彼。
「うん、美味しい」
美味しいわけないのに。
どこまであなたは私に優しいの。
好き。
ぽろりと口から出た言葉は、彼からの甘いキスによって塞がれていた。