小さな恋、集めました【短編集】
プレーンマフィン

【バレンタイン】


指に引っ掛けた手提げ袋は、放課後になっても目的を果たせていなかった。


中にはプレーン味のマフィン。

……きっともう渡せないんだろうな。


「まだ残ってたのか?」


がらりと開いた扉の先には、見回りに来たであろう先生の姿。


思わず胸がどきりとする。


「もう帰ります」

「おう。気をつけてな……ってそれ」


先生が指した先は、マフィンの入った手提げ袋で。


「バレンタインか?」

「……没収します?」


そう問えば、いや、と笑いながらかぶりを振る先生。


「今日は特別」

「……ありがとうございます」



「バレンタインかー」

俺チョコ苦手でさ。だからよく貰ってたのがマフィンで、好きなんだよね。


懐かしむように思い出話を語る先生。

そんなの知ってます。だからマフィンを作ったんです。


没収されるためだけに作られた可哀想なマフィン。

結局、その役目を果たすことさえできなかった。

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