小さな恋、集めました【短編集】
【受験】
わかってる。
忙しいことなんてとっくに知ってる。
もう上着なしでは外を出歩くこともままならなくなった。
冬の訪れ。
同時にそれは受験シーズンの訪れ。
受験生である先輩はここのところ毎日勉強に追われている。
受験が大切だなんてそんなことはわかってる。
なによりも受験に真剣に向き合う先輩はすごいと思う。
今日も一人で歩く帰り道。
いつも先輩と帰っていた道も冬になるにつれどんどん景色を変えていく。
大丈夫。忙しいのはわかってます。
わかってるけど、やっぱり……。
「寂しいものは……、寂しいですよ」
「そう言うだろうと思った」
思わず流れそうになった涙が引っ込んだ。
だって、目の前にいるのは。
「……先輩?」
大好きな先輩だったから。
なんでここに?
受験は?
勉強は?
聞きたいことはたくさんあるのに言葉がでない。
かわりに涙が頬を伝う。
「泣くなよ。せっかく来たのに」
微笑みながら私の涙をすくう先輩はやっぱりかっこいい。
「だってっ……勉強はっ?」
息も絶え絶えにやっとのことで言葉を紡ぎだすと、突然ふわりと抱きしめられた。
「息抜き。……お前に会いたくなったから」
そんなこと言われるともっと涙がでちゃうじゃないですか。
「……まだあまり会えないと思うけど、受験が終わるまで待っててくれるか?」
先輩の顔は見えない。
けれど密着している先輩の胸からは心地良い鼓動の音が聞こえる。
「そんなの、あたりまえじゃないですかっ」
くぐもった声でそう答えると急に体を離された。
一瞬の寒気とともに襲ってきたのは、あたたかな唇。
「約束な」
そう一言だけ呟いたあと、またキスの雨が私に降り注ぐ。
先輩を好きになってよかった。
心からそう思えたことに、また同じことを思った。
先輩。好きです。大好きです。