小さな恋、集めました【短編集】
ズルイ彼
【キス】
思えば、全て私からだった。
話しかけたのも、告白したのも、きっと好きになったのも。
そして今。
目の前で眠るあなたを見てキスしたいなんて思うのも、きっと私だけなんだろうな。
ファーストキスが独りよがりなものになるのは少しだけ胸が痛いけど、仕方がない。
だって意識があるときにキスなんて恥ずかしいし、なにより彼はしたいのかもわからないから。
唇と唇が残り数センチになる。
胸がドキドキして、目を閉じようとしたとき。
「……ふぇ!?」
驚いて素っ頓狂な声を上げてしまった。
だって、目の前の彼がぱちりと目を覚ましたから。
一瞬で目が合ってしまい、慌てて距離をとった……はずだった。
ぐっと力強く腕を引っ張られたと思ったら、気づけば視界には彼の顔。
咄嗟のことについていけないうちに、唇同士が離れると未だ近い距離にある彼の唇が動いた。
「ごちそうさま」
にやりと笑うその姿に私は完全にノックアウトされた。