これを愛というなら~SS集~
「瑠美に対して、もう気持ちはない。幸せになってくれ」


数日後の休みに瑠美と会う約束をして、復縁する気がないと告げた。


好きだったんでしょ?私をずっと。


そうだよ、ずっと好きだった。

俺の初めての彼女で、青春も全てを捧げた女性だから。

とは……言わない方がいい。

瑠美の性格だと抱き付いて、泣き落とそうとされる。

今の俺には、その行為は煩わしい。

蓮なら、そうされても抱き締めて宥めるんだろうけど、俺には出来ない。

宥める優しい言葉なんて持ち合わせていないから。

だから………


「出逢ったんだよ。はじめて可愛いくて仕方ないと……全てをかけて守り抜きたいと思えた彼女に。結婚を断った事は後悔していない。彼女に出逢えて、愛すことが出来たから」


瑠美からすれば、冷たい言葉なのかもしれないが……

これでいいんだ、瑠美には。


愛してもいない男と見合いだったんだろう。

それが嫌なら、俺は出来なかった事をしてくれて、愛せる男を見つければ良かったんだ。

なんて言っても、瑠美はきっと……私は陽介が忘れられないのに無理よって返してくるんだろう。

そうわかっているから、これ以上に言う言葉はない。



「ありがとう。こんな俺を愛してくれて。愛してない男かもしれないが、いつか愛せる日が来るよ。些細な幸せだと思える事を旦那さんと積み重ねて行けばな。バイバイ、瑠美」


俺を涙目で見つめたままで、何も言わない瑠美に背を向けた。

一歩ずつ遠ざかる俺の背中に、さようなら、と瑠美の涙声で叫ばれた別れの言葉が届いた。

背中を向けたまま、立ち止まって手を振っていた。

今にして思えば。

その些細な幸せは、誰かから大切な物を奪って会社を大きくする事だったのか?

脱税をして、半分は血の繋がった妹に暴行して傷付ける事だったのか?

違うだろ。

NEWSを見て。

蓮から話を聞いた時に、償って一からやり直して。

今度こそ幸せになって欲しいと願っていた。



帰ってから待っていてくれた利香に、終わったよ、と言うとーーー

おかえり、とキスをくれて。

昼下がりのベッドルームで、利香が望んでくれたように、利香を抱いた。

空が茜色の夕焼けに染まる時間までーーー幾度も。
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