これを愛というなら~SS集~
『お前は料理人の素質があると思ってるから散々、怒鳴ってきた。悔しかっただろ?辛かっただろ?俺も同じように罵倒されて今がある。俺に言われて悔しかった事、辛かった事を糧にして一日でも早く俺に追い付いて、俺を越える料理人になれ。坂口ならなれる!』


俺がバイトで貯めた自分の金で、初めて買った包丁セットだ。
坂口にやるよ!大事に使えよ!


厨房で大切に使っていた物を、ケースごとくれた。

最後までカッコ良く、俺なんかを認めてくれた憧れの人。

始めから敵うはずがなかったんだ。

それなのに挑発に乗って躍起になって……本当に情けないくらいガキだった。

同じように料理長に敵わずに傷心の島田さんを誘うと、、、

こんな俺に、女にして欲しいって。

いい女になれるよう愛してよ、なんて言われたら……

自信の欠片もないのに、俺でいいの?と訊けば、後悔しないって……

わかったよって言うだろ。


俺だって、23にもなって本気の恋愛なんてした事ないよ。

適当に遊んで、寄って来る子と適当に付き合って来ただけ。

だから……


「一緒に忘れよう?もう一回、訊くけど……本当に俺でいいの?」


洒落たホテルなんて行けないし、知らないからーーー普通のビジネスホテル。

ここへ来る前に店に寄って、ちゃんと買ったアレで避妊はしないとな。

男としてはまだ未熟で、責任を果たせる覚悟も根性もないから。

シャワーを浴びながら、当たり前の事を考えていて、先にシャワーを浴びてベッドで赤い顔で俺を見つめる島田さんに、今の俺の精一杯の想いと、最終確認を。


「…いいよ……後悔しない」


うん、と頷いて素肌の肩を抱いて、覗き込むように唇を重ねて、一度離して下唇を食んでを何度か繰り返すと、肩の力を抜いてくれて、唇を重ねたままベッドへそっと横倒らせてあげる。



何にも怖くないし、優しくするから。
全部、俺に委ねて。

うん、怖くない。大丈夫。
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