これを愛というなら~SS集~
グズグズといつまでも終わった恋を引きずっている、谷口くん。

男ならスパッと忘れなさいよって言いたいけれど、男の方が引きずるらしいから仕方ないか。

私が忘れさせてあげるわ。


いつの間にか、料理長ほどではない端正な今どきの俳優も顔負けの容姿に。

鈴木さんって、たぶん無意識に甘えた口調で呼ぶから。

料理長みたいに、からかいながら頭を毎朝、挨拶ついでに撫でてくるから。

それに、私好みの少年のような無邪気な笑顔に。

恋に落ちていた。

料理長!?

やっぱり恋とは落ちるものでしたよ!



桃子ちゃんって突然、呼ばれて顔が赤くならない方が不思議。

少し掠れた男らしい太い声も好きなんだもん。

この声で、甘え上手でワンコ系男子なんだから……

そのギャップにくらくら……する。


しかも、遊園地でしゃぐ姿は子供みたいで。

どんどん私を引っ張って思いっきり楽しんでる。

その後にだよ!

帰したくない、なんて言われたら……嬉しいよね。


連れて来てくれた場所は、東京タワー。

今では此処よりも高いスカイツリーが出来たけれど……此所はリュミエールに入社前のイケない恋の彼氏と来た思い出の場所。

だから、少しだけね……切なくなるんだけど……

その後に恋に落ちた悠馬くんが連れて来てくれたら、ここから見る夜景は切ないくらい綺麗じゃなくて……

すごく綺麗、って口から溢れてた。


綺麗だよね、と夜景を見つめる横顔に釘付けになってた。

足元を照らす照明に照らされて、夜景にも負けないくらい綺麗に見えたから。


視線に気付いたらしい悠馬くんに、ん?と見つめられて、視線が絡まって心臓がドクドクと高鳴り出す。

聴こえませんように……と願うけれど、今すごくドキドキしてるでしょ?って肩を抱かれて引き寄せられてしまう。


「ほら、やっぱりドキドキしてる。本当に可愛いよね。桃子ちゃんの可愛さを今日一日でいっぱい見れたから……そう遠くない内に忘れられそうだよ」


ありがとう、と言ったと思ったら……見上げていた私の額に唇が触れた。

なんで?と訊いていた私に、今日のお礼、と微笑まれて……さらに早鐘を打つ心臓。


「私こそ……ありがとう。楽しかったよ」


「うん、良かった。またデートしてくれる?」


いいよ、と返すと……ほら、また好きな笑顔をくれる。


ちゃんと忘れられたら桃子ちゃんの唇を奪うからね。

唇だけ?

桃子ちゃんが望むなら……全部、奪っちゃうかもね。


次は、いたずらっ子みたいな笑顔で甘い言葉を言ってくれるんだから……

もう私は……悠馬くんにメロメロだね。


もっともっと、甘い甘い恋の蜜でどっぷり溶かして。
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