これを愛というなら~SS集~
その日から仕事終わりにーー、

ご飯を食べに行ったり、飲みに行ったりしていたら、桃子ちゃんが俺の中を埋め尽くしていたんだ。

だってさ、可愛いんだよ。

いちいち赤くなる桃子ちゃんも。

キャキャっと笑う幼さ残る笑顔も。

少し酔って甘えてくる桃子ちゃんも。


そろそろ奪ってもいいかな?


そう思ってたんだけどさ……ここ最近の桃子ちゃんは元気がない。


どうした?

元気ないよ?

何かあった?

事務所に二人きり。

パソコンに溜め息ばかり吐いて、向き合っている桃子ちゃんの隣に椅子を寄せて覗き込むように訊いてみる。

何でもないよ……って答えるからさ……


「俺には何でも話して?力になれるなら桃子ちゃんの力になりたいんだ」


そう言ってみても……本当に何でもない、と。


「今は、そっとしておいて。時期が来たら……話すから」


なんて返されたら……わかった、としか言えないよ。

だけど、、、無理はしないでね。

ありがとう、って笑顔はくれたけれど……その笑顔はいつもの笑顔と違う。

無理に作られた、切なそうな笑顔。


頼りにならないかな……俺なんかじゃ。

頼られたいとか甘えたいとか、甘えられたいって思ったのは……はじめてなんだ。

中学から高校、大学って自分で言うのもなんだけど……散々モテてきたから、女の子が喜ぶこと、嬉しいこと。

もちろん扱い方にも、この年齢にしては長けているつもり。

だけど、あんな感情が絡むと……

こういう時は、どうやったら笑顔になってくれるのか。

扱っていいのか、わからなくなる。


桃子ちゃんと話をした数週間後にーー…背の高い社長と同年代くらいの男性と歩いているのを目撃してしまった。

友達と飲みに出掛けた帰りに。

桃子ちゃんの顔は浮かない表情。

助けてあげないと、と思った時ーー。

友達に、どうしたんだ?と訊かれて、ごめん、とだけ友達に告げて……男性と消えた先に駆け出していた。



何処へ消えたのか……わからない。

必死になって桃子ちゃんと男性の姿を探す……

残暑厳しい生暖かい風が髪を揺らして、額に汗が滲む……


薄暗い公園の街灯に照らされた二つのシルエット。

見つけたっ!!

フワフワの髪をハーフアップにした小柄な後ろ姿は、間違いなく桃子ちゃんだ!

男性に抱き締められ、身動ぎしている。

無理矢理か………!!


「彼女が嫌がってますよ!」


ゆっくり近付いて、桃子ちゃんの背後から男性に声を掛ける。


俺に視線を向けた男性は腕を解いて、誰?と呟いて。

桃子ちゃんは、振り向いた先の俺を見上げてーー…悠馬くん!?と。

咄嗟に、桃子ちゃんの腕を掴んで自分の方へ引き寄せていた。


「で……君は誰?俺とももは今から愛を育む所だったんだよ。ももを返してくれるかな?」


桃子ちゃんを見ると、少し怯えた感じで俺を見上げて首を振るから……小さく頷いて、大丈夫、と胸に抱き寄せる。


「俺は……桃子の彼氏です。だから貴方には返せません。それに桃子は嫌みたいですよ」


「ももの彼氏?笑えるな……先週はまた俺の腕に抱かれたのに……ももが好きなのはまだ俺だよ」


抱かれたと言われても、彼氏と名乗っても実際はまだ彼氏じゃない俺には……何も言えない。

それが、桃子ちゃんの意志なら。

だけど……今の桃子ちゃんは明らかに俺の腕の中で震えてる。


「震えてますよ?桃子とどういう関係か知りませんけど……無理矢理、抱いたんじゃないですか?じゃなければ、俺なんか振り払って貴方の所へ行きますよね?」


舌打ちをした男性は、今日の所は引き下がる。

次は必ずももを取り戻す、と告げて暗闇に消えて行った。


俺を見上げて、ありがとう、と言ってくれた桃子ちゃんに、大丈夫だよ。


「たまたま見かけてさ……雰囲気が変だったから追い掛けて来たんだ。詳しく話してくれる?」


「……まだ話すつもりはなかったんだけど……仕方ないよね……とりあえず場所、変えない?」


「……ここからは俺んちの方が近いから、俺んちでいい?」


いいよって返してくれた赤い顔の桃子ちゃんの手を繋いでーータクシーを大通りで捕まえて、俺んちへ。




話をちゃんと聞いて、桃子ちゃんは俺が守ってあげる。

桃子ちゃんの笑顔を曇らせる全てから。
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