これを愛というなら~SS集~
桃子と心も身体も結ばれて、幸せに満たされていた俺だけど……

あの男が、あの日に言った言葉がずっと引っ掛かっていた。

それなのに……桃子は、話をつけてくる、と頑なに、大丈夫、と言い切って……あの男に会いに行ってしまった。


話をつけたら連絡して。

迎えに行くから。


そう伝えて送り出した翌週の定休日。

昼前に出て行ったのに……夕方になっても、月が空を照らしても連絡がない。

電話も繋がらない……

不安と自分に対する怒りとが交じってーー…落ち着かない。

車の鍵とスマホを握り締めて、部屋の中をウロウロしながら……暫く止めていた煙草に手が伸びている。

久しぶりに吸うと、不味いんだけど……今は吸わないより吸っていた方が、少しは落ち着く気がした。


3本しか残ってなかった煙草を吸い終えて箱を握り潰した時、テーブルに置いていたスマホが鳴る。


ディスプレーにはーーー鈴木 桃子。

一息吐いて、桃子!?


『……迎えに来て……悠馬……私……ボロボロ……』


震える声で、泣いているような声で。

すぐ行くっ!場所は?

そう訊くと、駅前のビジネスホテル。


ここから一番近い駅前のビジネスホテルは、一件しかない。

部屋番号を桃子が教えてくれた時ーー、何やってんだ!?と罵声とまだ言うこと聞けないのか!?と頬を叩かれた音が聞こえて……切られた通話。

あの男の声。

それと……別の男の声。


車の鍵を握り締めて、ビジネスホテルに向かいがてらーーー

親父。力を貸してくれ。
大切な女の子が暴行された。

表向きは、貿易会社の裏社会の父親に連絡を入れた。

兄貴二人が、家業を継いでいて末っ子の俺だけは……

真っ当に生きろ、と大学入学と同時に家を追い出されて……今がある。

だけど……こういう時は、俺一人で行って……桃子を助けられたとしても、逆に俺が捕まったら洒落にならない。

一応は、裏社会の息子で武道には長けているだけに……今の怒りをぶつけたら……手加減する自信はない。

俺が捕まらずに助けられる唯一の方法。
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