1分で読める初恋短編集
10:その名前を口にしたら
「イツキ」
 彼の名前はたったの3文字しかない。
 そんなことは知っていたはずだった。
 けれど、彼に恋をしていると自覚してからというもの、その3文字を言うことができなくなっていた。
 1年前だったら気軽に呼べたと思う。
 彼も「同じクラスに苗字が被ってる奴いるから名前で呼んでくれ」って言ってたし。
 でも、もうそれができない。
 名前を呼ぶだけで、心臓が口から出てきそうなぐらいにドキドキしてしまうからだ。
 だけど、今日は彼の後姿に向かって小声でその名前を言うことができた。
 絶対に聞こえない、小さな小さな声で。
 口にしたその言葉は、とても美しいように思えた。
 そして、もっと言いたいと……深く思った。
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