1分で読める初恋短編集
19:そして、また
「別れよう」

 誰もいない教室で彼がそう言った時、ああ、やっぱりと思った。
 何かケンカをしたわけでもないし、別の誰かを好きになったわけでもない。
 でも、なんとなく終わりが見えていた。

 ――倦怠期。

 そう呼ばれる期間を、私たちは超えることができなかった。

 初めての恋が実って、2人とも嬉しくて何をするのも楽しかったあの日々はもう戻ってこない。

「うん、そうだね」

 自分でも酷く冷静に声が出たともう。
 その後で何か言おうと思ったけど、言葉がのどに詰まって何も言えない。

「じゃあ、いくね」

 彼は出て行き、私は1人残った。

 ここで告白された時のことを思い出す。
 あの時も「はい」以外の言葉がのどに引っかかった。
 違うのは、1個だけだ。
 涙が出ているということ。

 とめどなくあふれる涙を、流したままにしていた。
 床にこぼれるたびに、思い出が1つずつ消えていくような気がして、そのままにした。
 このままキレイに流れ去ってほしい。
 そうすれば、また前を向けるから。
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