赤を君に贈る
苛立ちと興味
─────午後8時半
「よし、明日の準備終わったし帰ろう。」
職員室には私だけだった。
学校から車で30分。
「ただいま〜。」
ボフッ。
バッグを放り投げベッドにダイブする。
疲れた。
ご飯を食べてお風呂にも入らなきゃ。ハムスターのチロルにご飯をあげて録画してたテレビを見てLINEを返して──────。
ダメだ。
国語準備室での事が頭から離れない。無理矢理に違う事を考えようとするが、どうしても彼女の目がフラッシュバックする。そんな彼女への苛立ちを感じながらも頭から離れないのは少しの興味からなのか。
途端に胸が締め付けられるような感情に陥る。
「お風呂に入ろう。」
一旦思考をスッキリさせるには、お風呂に浸かる。これが1番だ。そしてお風呂上がりのビールは1日頑張った自分へのご褒美。缶ビールを開けながらスマホへと手を伸ばす。
着信2件。
どちらも瑠璃からだった。瑠璃は私の親友で幼なじみである。小さい頃から何でも相談に乗ってくれる私の良き理解者なのだ。
「もしもし?瑠璃?」
「今帰り?お疲れ様!」
「瑠璃〜!!お疲れたよ〜!!」
「おお、どしたどした。」
「実はね、新しく国語を担当するクラスによく分からない子がいるの。なぜかすごく嫌われてる気がしてさ。どう接していいか分かんないの…。」
「あらら…。初っ端から嫌われちゃってるのか。花奈は誰からも好かれるタイプだと思うんだけどなぁ。ふふっ、あんた何したのさ。」
「ちょっと!笑わないでよ!何したか分からないから悩んでるのよ。明日からあの子に会うのが怖いよ〜瑠璃〜!会いたいよ〜!」
「ごめんごめん。じゃあ明日飲み行く?その時に詳しい話聞かせてよ。最近あんまり花奈に会えてなかったしさ。」
「ほんと!?行く!じゃあ19時にいつもの居酒屋でどう?」
「いいね。じゃあまた連絡する!」
「うん!楽しみにしてるね。」
瑠璃と会える。久々に会える。
「やったよ〜!チロル〜私元気出たよ〜!」
思わずチロルに話しかける。さっきまでのモヤモヤが一気に晴れていく。
瑠璃と会ったのは小学校1年生の時。確か男子にからかわれていた私を瑠璃が助けてくれたんだっけ。
それから瑠璃といっしょにいる事が多くなったのだ。中学、高校、大学さえ一緒だった。
就職してからお互いに忙しくなり、遊ぶ頻度も以前より少なくはなったが、それでも1ヶ月に1度は会う仲である。
「明日も頑張ろう」
そういえば明日も3-Sの授業あったっけ────。
眠りにつく前の消えゆく意識の中、ふと頭の片隅に彼女がよぎった。