鬼の棲む街




・・・なに、なんなの?


自分の変化に戸惑ううちにフッと笑った紅太は


「ほら、行くぞ」


その長い手で私の手を引いた


「・・・あ、」


いきなりのことに反応出来ず
引かれた手はいつの間にか繋がれていて

紅太が近づくだけで開かれる扉を通り抜ける間も厳ついさんが立つ廊下でも

少し前を歩く紅太の横顔を盗み見ることしかできない


そんな私の視線に気付いたのか玄関を出た後で


「穴が開きそうだ」


紅太は立ち止まってフワリと笑った


「・・・っ」


この台詞を聞くのは二回目で

自分がどれだけ不躾な視線を送っていたのかを思い知る


だからといって謝るのは違う気がして誤魔化すことにした


「・・・だって」


「ん?」


「・・・手」


そう言って繋がれた手に視線を落とす


あぁ、とその手を持ち上げた紅太は


「迷子にならないように」


そう言うと反対の手で私の頭を撫でた


「・・・っ」


理由を知りたい筈なのに紅太の動作ひとつで乱されるのは私だけ

たったそれだけで騒がしくなる胸と依然赤いままであろう頬

そんな私を追い込むように


「それ、可愛いな」


紅太の瞳がスーッと細められた


それにドキドキしながらも

紅太の視線の先を追う私は最早術中にハマっていて

愛さんの買ってくれたワンピースを褒めてくれただけなのに


頬はさらに熱を上げた

紅太はそれを全部分かった上で


「小雪が着てるからだろうがな」


追い討ちをかけてきた


「・・・なっ」


無理無理無理無理無理無理無理


抗議しようとする口は開いても声は出てきてはくれなくて


代わりに繋いだままの手を引いてエレベーターに乗り込んだ紅太は


扉が閉まった瞬間


「クク、悩め」


難解な言葉を使うと何事もなかったかのように涼しい顔で前を向いた










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