鬼の棲む街




昨日振りの大広間は上座に愛さん夫婦と長机は疎らに厳ついさん達が座っているだけだった


少しの嫌な予感に紅太と繋がる手を抜こうとしたけれど

ビクともしない大きな手によって愛さんの隣に腰を下ろすことになった


・・・無理無理、私、鬼じゃないし


なんて思っていても鬼に挟まれた状況は変わらなくて


意外にもアッサリと諦めることを選んだ



チラッと隣を見るとフカフカの座布団に綺麗に正座している愛さん

これまで正座をする機会が極端に少なかった所為で短い時間でも痺れてしまう


そんな私の視線に気付いたのか


「私も普段正座なんてしないわよ?足が太くなるもんね?」


愛さんはそう言ってクスクス笑った

その綺麗な笑顔を見ながら

母様、いや、違うか
あの人は『正座は極力しないこと』なんて言ってたことを思い出した


僅かに表情が歪んだ自分にすら気付かないうちに


「此処、テーブル席にするか」


右隣の紅太は私の脚を見ながらククと笑い始めて


少し意地悪そうな顔を見て頬を膨らませた私は

思い出した昔話が吹き飛んだことに気付かなかった

だから・・・

悔し紛れに出したのは


「慣れれば出来るんだから」


子供みたいな強がりで


「あぁ、慣れろ」


そう言って頭を撫でてくれるその手が心地よくて


「うん」


髪が乱れることも忘れて笑っていた


そんな私と紅太を見て微笑んでくれている愛さん夫婦と


驚愕の目を向けた厳ついさん達には気付かず


並べられた料理に目を奪われて此処に尋と巧が居ないことに意識が向かなかった






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