鬼の棲む街



「おかえり」



玄関を入ったところで少女漫画に出てくるお姫様みたいな可愛らしい雰囲気の人に出迎えを受けた


「「ただいま」」


そう言ったのは愛さん夫婦


戸惑っている私に


「母よ」


そう言って笑った愛さんは「どうぞ」とスリッパを並べてくれた


確かに顔はよく似ていてるけれど“ゆるふわ”なイメージが合うお母さんは

明るい色のウェーブの髪とヒラヒラ揺れるリボンの付いたワンピースも柔らかな色合いで“お姫様”という形容が当てはまる


対照的に艶のあるストレートの黒髪に真っ白でシンプルなワンピースを着こなす愛さんは隙のないクールな印象


促されたのに二人を見比べて動けない私に


「行くぞ」


声を掛けたのは隣で漆黒を纏う紅太だった


「・・・あ、うん」




□□□



鬼と並んだ昼食の後で「終わらせる」と立ち上がった愛さんに連れられて此処まで来た


行き先は同じなのに二台の車に分かれて乗り込んだ

その車内で


「蓬田圭介《よもぎだけいすけ》です」


携帯電話の連絡先に入っていた謎の一人が運転席から挨拶してくれた


尋と巧の一つ下の代でLーDragonの副総長をしていたという彼は十九歳

今は紅太の側近という立場らしい


「側近なんて聞こえは良いけど謂わば雑用係り」


と笑う彼の雑用話で道中はとても楽しかった


紅太とずっと繋がれたままの手のことは結局のところ理由を教えて貰うタイミングも無くて


何処に行くのか不安な気持ちが膨らまずに済んだのは


紅太の温もりのお陰なんだと解釈することにした



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