鬼の棲む街



愛さんのお母さんの印象そのままのような柔らかな色合いのリビングルームに通されると

そこには愛さんと雰囲気のよく似た男性が待っていた


「父よ」


簡単に紹介されて丁寧に挨拶をしたけれど


“一般人”とは言い難い雰囲気に辞めたとはいえその道だったんだと納得する


その緊張感に紅太の手をキツく握ってしまった私の手を
紅太はソファに腰を下ろしてからも離さないでいてくれた


「紅太、二人は?」


向かい側の愛さんのお父さんが声を掛けた


「二人は仕事」


「かなり手広くやってるな」


「有能ですから」


話の内容は分からないけれど“二人”とは多分双子のことで

ここにきて初めて紅太の部屋に行ってから今まで双子の姿を見ていないことに気がついた


そんな私に一度視線を向けた紅太は繋いだ手に少し力を入れた


「書類は揃ってる」


圧倒的に少ない言葉数
その意味を探るより先にテーブルの上に広げられたのは

[養子縁組届]と必要な書類だった


そしてそれは既に記入済みで昨日の今日で揃えられたことに驚く


「あの・・・どうして」


此処へ来て、まだ何も話していないし
私のことをもっと知って貰ってからでも遅くないと思う

どこの馬の骨ともわからない私を簡単に娘にしても良いはずない

そんな気持ちが口を突いて出た


「どうしてか知りたいか?」


それを真っ直ぐ受け止めてくれる愛さんのお父さんは


その重い雰囲気を緩ませた


「俺達は娘の愛のことを誰よりも信じているんだ
もちろん一平のことも・・・
だからその愛が決めて一平が頭を下げた今回のこれについて俺達がとやかく言うことはないし寧ろ、頼ってくれたことが嬉しいくらいだ
それに咲《さき》は娘が増えることを喜んでるくらいだからな」


「そうよ。宜しくね」


「・・・は、い」


何者かも分からない私を無条件に受け入れてくれる優しさに涙腺が崩壊した














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