鬼の棲む街



「・・・っ、なにこれ」


鏡の前で悶絶すること数分

『愛から』と渡された紙袋に入っていたのはママがオーダーしたという下着とネグリジェ


重要な箇所にだけ雪椿の刺繍がある際どいものだけど・・・
百歩譲って下着は許す


スケスケなんてもんじゃないネグリジェは裾模様にさり気なく雪椿があって
めちゃくちゃ可愛いのに破廉恥

これを着れば難攻不落でも落とせるかもしれない

何度ため息を吐こうが着替えはコレしかなくて

居間には紅太が居るからバスタオルを巻いて出て行くのも無理だ


「どうしよう」


頭を抱えた所で


「観念しろ」


紅太の声がリアルに聞こえた

驚いて顔をあげた瞬間鏡越しに見えたのは

上半身裸の紅太だった


「キャァ」


「・・・ったく」


明け渡せと言わんばかりに入って来た紅太は動けない私に


「出て行かないのか?」
ベルトを外しながらクスと笑った


「ちょ、待って」


慌てて飛び出して扉を閉めた


バタンと勢いよく閉まった扉を背にズルズルと座り込む


「えっと・・・」


無理無理無理無理無理無理無理


心臓が飛び出そう


自分の格好を忘れて寝室に飛び込むと今度は大きなベッドが目に飛び込んできて胸が苦しくなる


・・・どうしたの?私


触れて欲しいと願ったのに


この期に及んで震えている身体


初めて好きな人に抱かれるかもしれないって

こんなに高揚して

不安定で

泣きたくなるものなの?


大きなベッドに入ってフローラルの香りに包まれながら気持ちを落ち着かせるように目蓋を閉じた




そのまま寝てしまった私は


大好きな紅太に引き寄せられたことも


甘い「おやすみ」を聞いたことも


オデコに触れたキスも


知らない













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