鬼の棲む街



温かな感触に目を覚ます

間近に見える紅太の胸に
なんだか泣きたくなった



背を向けていなくて良かった


手を繋いでいなくて良かった



肌に触れているだけなのに
それが嬉しいなんて

私もどうかしてる


「・・・馬鹿」


“好き”より先に口を突いて出た声を


「悪口か」


拾うのは暗闇に光る漆黒の瞳


「フフ」


期待を裏切らない返しに笑って
微睡みの所為なのか紅太の鎖骨に口付けた


僅かに揺れた身体が
次の瞬間には引き上げられていて

同じ高さで合った視線に囚われた、刹那


唇が塞がれた


「・・・・・・ん・・・っ」


熱い唇が触れるたび


甘い痺れが身体を侵す


ゆっくりと歯列を割って侵入する熱い舌

絡め取られ、なぞられるだけで
ゾワリと肌も粟立って身体の芯に熱が生まれる

深くなる口付けに
されるがまま

しがみつく私を抱きとめる手が

背筋に沿って滑り始めた


「ぁ・・・っ、んぁ・・・」


ネグリジェの生地の所為でスルスルと滑る指に意識が剥がされそうになる


それを呼び戻すのは


後頭部を添えるもう片方の紅太の手

逃げられない深い口付け


お互いの熱を分け合うみたいに
官能的に絡め合うそれに


夢中で縋り付く


触れて欲しいと願った想いが


身体の火照りになって



呼吸さえも


乱してきた




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