鬼の棲む街



真っ暗な寝室に


互いの呼吸だけが甘く色付いて

溺れるように求め合う


貪る熱がドロドロに溶けあって

意識が混濁する中


フローラルの香りに包まれているはずなのに


断片的に

白の残像が頭を掠めた



「・・・・・・っ」


暗闇でひたすら時が過ぎるのを待った苦痛の時間が


紅太に溺れ始めた私を追い詰める


「小雪」


「・・・・・・ゃ、」


「俺を見ろ」


「・・・や、・・・やめ、て」


「小雪っ」


強い力に抱きしめられて目蓋を開ける

いつの間に点いたのか
間接照明が柔らかな光を灯していて


間近の紅太の表情がハッキリ見えた


「紅太」


「小雪を抱いているのは俺だ」


「・・・っ」


泣きそうになるのを堪えて
漆黒の瞳を追いかける


「余所見する余裕があるのか?」


「・・・馬鹿」


フッと笑った紅太は
鼻の頭にキスをひとつ落として


「俺を見てろ」


耳元で甘く囁く


「紅太」


シュルッと胸元のリボンを解く長い指が肌を露にして


火照る身体に口付けた形の良い唇は
チリと痛みも落とす


「綺麗だ」


絡めた漆黒の瞳は情欲の炎が揺らいでいて


赤い舌が這うたび波立つ肌に


身体の奥から熱が吐き出される


「・・・ふっ、ぁ・・・ぁ」


「・・・小雪」


「ぁ、ん・・・ぁっ・・・ん」


「悪りぃ」


「ぁぁあ・・・っ」


「優しく、できねぇ」


何度も、何度も確認するように
名前を呼び合い、互いの熱を上げていく


「・・・こ、うた」


サラサラの髪が肌を掠めて

それさえも甘い刺激になる


紅太の熱い唇が胸の一番敏感なところを捉えただけで


堪えていた甘い声が漏れた



「・・・ぁ、んっぁぁ、あ、っ」










官能の渦に巻き込まれて


意識を手放す寸前



「小雪、愛してる」



聞こえた愛しい声と



ひとつになれた喜びに




閉じた目蓋の隙間から


一筋の雫が落ちた



















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