鬼の棲む街



目が覚めるより
身体が軋む痛みを先に感じた


「・・・い、た」


ゆっくりと開けた目が捉えたのは
寝息を立てる紅太の姿だった


形の良い眉も


長い睫毛も


スッと通った鼻も


薄い唇も


全てが綺麗で愛しい


しなやかな筋肉質の腕の中に居ながら
触れている肌が心地よいなんて


どこまでも婀娜っぽい男


上下する胸にそっと手で触れる


彫刻のような筋肉美に
情熱的な夜が思い出された


「・・・っ」


急速に熱の集まる頬と強く打ち始める鼓動


全身が心臓になったみたいに
耳までも重低音が支配する


動けないのに


隠れたい



長い睫毛が動く前にと考えたのに

閉じていると思っていた鬼の目は

艶やかに揺らいでいた



「穴を開ける気か」



「フフ」



少し眠たそうな瞳は
意図せずとも秀麗で


・・・綺麗


それがしっくりくる


「小雪も綺麗だ」


求めてないのに答えてくれる鬼は


“も”を使うあたり
自分が綺麗なことを知っているらしい


「フフ」


小さなやり取りのお陰で正常に戻りつつあった鼓動と頬が


「良い眺めだな」


少し視線を落とした紅太によって
また上昇を始める


お互いに素肌を晒したままシーツに包まっているだけ


隠しようのない肌を


「馬鹿」


紅太に密着することで隠した


・・・・・・つもり


それが返って紅太を煽っているなんて


急場凌ぎの浅はかな行動は


「キャァ」


動かせない身体を一瞬で組み敷かれて


「なんだ、物足りないのか」


酷く扇情的な紅太の熱い視線に捕まることになった


「ゃっ・・・も、っ・・・む、り」


「それは、身体に聞いてみないとな」





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