鬼の棲む街



「馬鹿」


「フッ」


散々翻弄された後で連れてこられたバスルーム

降ろされたって何も出来そうになくて
大人しく抱かれたままなのに

無限の体力を持っているみたいに
どこか余裕の紅太を睨んだ


「よせ、風呂に入れるのは二回目だ」


「・・・は?」


「昨日寝る前に入れたぞ?」


「・・・へ?」


「もっとも、小雪は夢の中だったが」


クスクスと笑う紅太に
もはや勝つつもりもなくて


「馬鹿」


悪態をつくしかない


「可愛いやつ」


そんなことぐらいで動じるはずもない鬼は


艶っぽい笑顔で私を魅了して


「体力ねぇな」


上げたり下ろしたりに余念がない


最近よく見る紅太の笑顔を見ながら
頭を掠めるのはひとつだけ



いつもあんな風に抱くのだろうか


『優しくできない』なんて
欲情を打つけるような抱き方を


これまでもしてきたのだろうか


沸々と芽生える劣情に靄が広がる



「これまでは欲の解消と組の為。触れてやることすら無かったが、それも二年以上前の話しだ」



問いかけてもいないのに靄を一瞬で晴らすのも紅太


「二年も・・・なの?」


「枯れたかと心配したが」


「充分でしょ」


「そうか?足りないんじゃねぇか?」


「・・・馬鹿」


知れば知るほど愛しい


冷たいはずの赤鬼



「フフ」


「どうした」


「好きよ、紅太」


「・・・っ、足りねぇんだな」


「ちょ、ち、が、んんっ」


抱かれていたはずの身体が湯船の中で反転して


気がついた時には


甘く翻弄されていた








「馬鹿」


「愛してる、の間違いだろ」









fin









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