鬼の棲む街



私の腕を掴む巧

背後に近づく尋


閉じてしまったエレベーターの扉


カオスな状況に水を差したのは


グゥゥ
私のお腹だった


「ブッ」

「クッ」

「・・・なに、よ」


「腹、減ってんのか」


クツクツと笑う尋からは、さっきまでの妙な雰囲気は消えていて


「悪い?」


安堵と同時に開き直ってやった


「子猫ちゃん。食べに行く?」


巧は相変わらずの緩い喋りで漸く掴んでいた腕を離してくれた

掴まれていたブラウスは皺になっていて少し捲ると肌は赤くなっていた


「どんだけ強く掴んだの?加害者さん
お詫びにご馳走するって言うなら許してあげても良くってよ?」


挑発的するように腕を持ち上げた


「クッ、子猫ちゃんは可愛いねぇ」


巧はスッと細めた目で妖艶に笑うとその持ち上げた腕を支えて「ごめん」と口付けた


「・・・っ」


「巧っ」


何故か尋まで焦っていて


「ちょ、なにすんのよっ。もぉ、失礼で嫌な双子」


深く考えることもなく二人を交互に見ながら文句を言って腕を引けば


「上等」

クスリと笑った尋


「お〜初めて言われた〜」


パチパチと瞬きをして綺麗な笑顔を作った巧


そんな双子を見ているだけで腹を立てる自分がくだらなく思える


「言っておくけど。大盛りだって食べられるからね」


フンと顎をしゃくれば


「「お姫様、お手をどうぞ」」


示し合わせたみたいに私を真ん中に収めるよう尋は左手を、巧は右手を差し出した


「フフ」


片方ずつ二人と手を繋いでエレベーターに乗り込む


「思い通りになんねぇ」


右側から尋がフッと笑う


「そこが良いんじゃねぇのよ子猫ちゃん」


巧は揶揄うように笑った



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