鬼の棲む街


「美味しい」


「「だろ?」」


運ばれてくるお肉は
どれも絶品で

いつもより箸が進んだ


「子猫ちゃんが肉食ってゾクゾクする」


巧のウインクに背筋がゾワリとする


「太っちゃう」


口だけで箸は止めない


「小雪は細すぎだ」


「ほんと、子猫ちゃん折れそうだよ?」


「女は常に完璧じゃないとダメなのよ?」


言いながらハッとする

これは母様の口癖だった

十八年間愛情なんて感じたことのないあの人の言葉が

まさか自分の口から出るなんて・・・


「そんなもんか?」


「女の子は大変だ〜」


一瞬歪めた表情を見ていたはずなのに聞き流してくれた双子は実は良い奴かもしれない


「ビール飲み過ぎじゃない?昨日飲んでみたけど苦くてヤバかった」


「それは小雪がお子ちゃまだからだ」


フッと笑った尋の得意顔も見慣れてきた


「昨日、誰かと飲んだの?」


蕩けるような笑顔の巧も破壊力がある
それも見納めだと思えば少し残念


「ううん。紅太と尋と巧にサヨナラの乾杯したのよ?」


一瞬で鳩豆顔になった二人は「「は?」」口まで開けた


「どういうことだよ」


「聞き捨てならないね〜子猫ちゃん」


「ん?そのままよ?私ねこの街に住むのは大学の四年間だけなの
始まったばかりだから波風とか嫉妬の標的とか避けて通りたい
だから、もうDragonにも行かないし杉田さんの店のアルバイトも断る予定
さっきもそれで店に行ったのに
尋が無理矢理連れ出すから、もう一度行かなきゃいけないけどね
だから、サヨナラの乾杯って訳」


一般人だから関わらないと双子を交互に見ながら言い切った



・・・達成感


そんなもんじゃない


胸が・・・酷く苦しい


< 73 / 205 >

この作品をシェア

pagetop