鬼の棲む街


食べ終わったのにデザートすら運ばれて来ないのは店側の配慮だろうか


重い空気から逃れたくてパチンと音を立てて両手を合わせた


「ご馳走様でした〜。損害賠償終了です」


サッと立ち上がると


「デザート」


尋に腕を掴まれる


「要らない」


「注文したろ」


「この空気で食べるの嫌だ」

自分で空気を悪くしておいて、なんて女だろう


「チッ」




結局


微妙な空気のまま店から出た


仲良く手を繋いで此処まで来たのに今は三人バラバラで

これなら気持ちを残さずリセット出来そう


「じゃ、私寄り道するから」


「「送ってく」」


反応した二人を制しながら


「着いて来ないで」


釘を刺して踵を返した


折角良い気分だったのにな〜

そんなことを思いながら真っ直ぐ目指すは“喫茶あひ”


カラン
頭上の鈴を見上げながら店内に入る


「いらっしゃい、お帰りかな」


壁の時計を見れば尋に担がれて連れ出されてから二時間程経っていた


「なに飲む?」


「赤ワイン」


「お、かしこまりました」


カウンター席に座るとワイングラスが置かれた

注がれるボルドー色に頬が緩む


「俺も」


そう言った杉田さんは少し大きめのグラスに注いだ


「「乾杯」」


グラスを傾けると一気に飲み干した


「飲んでたの?」


「はい。尋と巧と焼肉に行って」


「あぁ、美味い店だっただろ?」


「ほっぺが落ちそうでした」

両手で頬を挟んでみる


「その分じゃ大丈夫そうだね」


「フフ」


「で?」


「双子に口説かれて」


「どちらか選んだ?」


「二人を置き去りにしてきました」


「ハハ、そうか、そりゃ良い」













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