鬼の棲む街


「うちは四人家族なんです」


唐突に始めた私の話にも杉田さんは表情を変えず


「じゃあ小雪ちゃんは末っ子?」


そう言って笑った


「一人っ子か末っ子って感じがする」


「なんか嬉しくない気がしますが。正解。兄様がいます」


「一人娘なのによく外へ出してくれたね」


「約束だから」


「約束?」


「四年経ったら必ず帰ること」


「そうなんだね」


「そして、父様の決めた人と結婚する」


「・・・それ、重いね」


「ですよね」


カウンターの中から出てきた杉田さんはカランと鈴を鳴らして外へ出ると店名の板を持って入ってきた

・・・あれが開店の印?

そして入り口の鍵をかけると隣に座った


「小雪ちゃんの話に横槍はいらないからね」


そう言って柔らかく微笑んだ杉田さんは

ちょうど真ん中にワインボトルを置いた


「父様の言うことは絶対で家族は意見することなんて許されないの
母様は父様の機嫌を常に気にしていて愛人のことも知ってて黙ってる人
私は娘なのに母様と二人で話したこともない
兄様は優しくて私のことを気にかけてくれる唯一の人
幼稚園から持ち上がりの学校では一人しか友達居なかったの、それも男」


「土曜日のあの彼のことだね」


「はい」


「恋人じゃないの?」


「友達?恋人?それって人生に必要?」


「あの彼は親密そうに見えたけど」


「親密、かどうかで言えば親密。彼も同じような境遇で同志みたいなものだから」


「自分を大切にしなきゃ」


「大切にしたくないって思ってます
自分を傷付けることでしか自分を保てないから・・・
父様から口癖のように言われることへの抵抗みたいなものです」


「口癖?」


「日曜日だけ家族が食卓に揃うの。そこで毎回
『大学を卒業したら結婚だ
だから四年は好きに羽を伸ばせばいい
ただ・・・ハメを外し過ぎるな
結婚相手を幻滅させることになりかねない』って釘を刺される」






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