十六夜月と美しい青色
その日結花が両親に連れられて訪れたのは、市内でも指折りの高級料亭だった。街中に溢れかえっている、クリスマス前の派手なイルミネーションやサンタクロースの飾りなど何もなく、街の喧騒からは隔離されたような静かな場所だった。
駐車場から店の門をくぐり、両親の後を追って石畳を歩く。そこには、来客を先ず迎え入れる役割を果たすために美しく整えられた日本庭園があり、その風景は、どこから観ても風情を感じさせるであろうことが容易に想像できた。そして、紅葉の終わりを迎えた木々は、庭師たちによって丁寧に菰を巻かれたり、雪吊りをされて来る冬の備えを着々と進めていた。きっと、お正月に雪景色が加われば一段と風情のある情景になるだろう。是非、冬景色を愉しむためにここを訪れるのもいいかもと、結花は思いを巡らせていた。
口から吐く息が白く流れていくほど寒さを感じ、片手で肩に巻いていたショールを口元にあてた。そして反対の手を、ちらつき始めた風花に差し出してみる。手のひらに落ちてきた雪が風に揺られて踊っているように見えた。掌中の六華が、結花の体温であっという間に水に姿を変えると、その冷たさに改めて冬の訪れを感じさせられた。
「結花、早く来なさい。寒くなってきたから、風邪をひくわよ」
母に声を掛けられると、小走りに両親の後を追った。頬をかすめる冷たい風が、纏めた髪をいたずらに乱す。
自然に任せてもいいならと言ったものの、結花は、素直になれない自分がいることに、多少の不安を感じていた。あの日から一度も和人に会うこともなく、お見合い話を聞かされる前には柊吾からは予想してもなかったことを言われ、慰められた相手というだけでは終わらない感情が生まれていた。それが、恋なのか愛なのかは定かではない。曖昧なままに、自分の気持ちから目を背ける、自分の中の大人の狡さに少しばかりの感謝をしていた。
結花の両親は、慣れたように店の暖簾をくぐると女将に出迎えられて個室へ通された。その後ろを、慣れない振袖を着た結花が小走りに追いかける。多分、仕事柄両親はこういった場での会合に出ることが多いのだろうと思いながら、後ろに結い上げた髪のおくれ毛を気にしながら案内された座敷へと足を踏み入れた。
駐車場から店の門をくぐり、両親の後を追って石畳を歩く。そこには、来客を先ず迎え入れる役割を果たすために美しく整えられた日本庭園があり、その風景は、どこから観ても風情を感じさせるであろうことが容易に想像できた。そして、紅葉の終わりを迎えた木々は、庭師たちによって丁寧に菰を巻かれたり、雪吊りをされて来る冬の備えを着々と進めていた。きっと、お正月に雪景色が加われば一段と風情のある情景になるだろう。是非、冬景色を愉しむためにここを訪れるのもいいかもと、結花は思いを巡らせていた。
口から吐く息が白く流れていくほど寒さを感じ、片手で肩に巻いていたショールを口元にあてた。そして反対の手を、ちらつき始めた風花に差し出してみる。手のひらに落ちてきた雪が風に揺られて踊っているように見えた。掌中の六華が、結花の体温であっという間に水に姿を変えると、その冷たさに改めて冬の訪れを感じさせられた。
「結花、早く来なさい。寒くなってきたから、風邪をひくわよ」
母に声を掛けられると、小走りに両親の後を追った。頬をかすめる冷たい風が、纏めた髪をいたずらに乱す。
自然に任せてもいいならと言ったものの、結花は、素直になれない自分がいることに、多少の不安を感じていた。あの日から一度も和人に会うこともなく、お見合い話を聞かされる前には柊吾からは予想してもなかったことを言われ、慰められた相手というだけでは終わらない感情が生まれていた。それが、恋なのか愛なのかは定かではない。曖昧なままに、自分の気持ちから目を背ける、自分の中の大人の狡さに少しばかりの感謝をしていた。
結花の両親は、慣れたように店の暖簾をくぐると女将に出迎えられて個室へ通された。その後ろを、慣れない振袖を着た結花が小走りに追いかける。多分、仕事柄両親はこういった場での会合に出ることが多いのだろうと思いながら、後ろに結い上げた髪のおくれ毛を気にしながら案内された座敷へと足を踏み入れた。