十六夜月と美しい青色
3…それぞれの居場所
ホワイトクリスマス
結花は朝から、柊吾に頼まれていたテナントの応援に来ていた。いつものエプロンを着けて「おちゃのじかん」の開店準備を始めていた。
あの頃なら、そろそろ凌駕が和菓子を配達に来る時間だけれど、今は開店間近に来ているらしく、事情を知っている柳田が、その時間なら周りのテナントのスタッフも来ているから心配はいらないだろうと気遣って教えてくれていた。
「おはよう」
まだ、開店準備中で静かな薄暗いフロアを革靴の硬い音を響かせながら和人が顔を出してきた。雑多な音がないと、コツコツと鳴るその音が、特別なもののように結花の心に響いて存在感を主張してくる。
「おはよう。こっちに手伝いに来ると、クリスマスだなって思うわね。茶舗の方は、客層も違うからここまでイベント的な装飾はしないし、普段は事務所で仕事をしているせいか新鮮だわ」
ミディアムヘアを後ろへ流し、乱れないように固めてあるだけなのに、昨日のお見合いの時より艶っぽさが増していて、結花は頬が赤らむのを感じ、慌てて和人に背を向けるように品出しを始めた。
「クリスマスの夜、昨日言っていた友人のイタリアンの店が予約ができたんだ。仕事が終わったら、事務所へ迎えに行くから一緒に過ごしたい。来てくれるか?」
「いいわ。仕事が終わったら連絡くれる?それなら、プレゼントも要るわね。何か欲しいものがある?」
「結花が俺の事を思って用意してくれるなら、どんなものでも大切にするよ。それよりも、朝まで帰さないから、そのつもりで」
「えっ…」
その言葉に驚いて、結花は慌てて振り返った。
「そういう事は、もう少し場所を考えて言って欲しいわ…」
振り返ると、不敵な笑みで立っていた和人の後ろに、配達に来た凌駕がいまの話を聞いていたのか、固まって立っていた。
そして結花は、和人の表情からこのタイミングで配達があるのを知っていて、自分のもとに来たのだろうと確信した。
「あっ、おはようござい…」
「配達ご苦労様。商品はそこのテーブルの上に置いてくれたらいいから」
慌てて挨拶をする結花の言葉を遮って、和人が紅梅屋の配達に来た凌駕に指示を出した。
「は、はい」
凌駕は、想像もしていなかった状況に驚きを隠せず、和人と結花の親密な雰囲気から目が離せなくなっていた。
あの頃なら、そろそろ凌駕が和菓子を配達に来る時間だけれど、今は開店間近に来ているらしく、事情を知っている柳田が、その時間なら周りのテナントのスタッフも来ているから心配はいらないだろうと気遣って教えてくれていた。
「おはよう」
まだ、開店準備中で静かな薄暗いフロアを革靴の硬い音を響かせながら和人が顔を出してきた。雑多な音がないと、コツコツと鳴るその音が、特別なもののように結花の心に響いて存在感を主張してくる。
「おはよう。こっちに手伝いに来ると、クリスマスだなって思うわね。茶舗の方は、客層も違うからここまでイベント的な装飾はしないし、普段は事務所で仕事をしているせいか新鮮だわ」
ミディアムヘアを後ろへ流し、乱れないように固めてあるだけなのに、昨日のお見合いの時より艶っぽさが増していて、結花は頬が赤らむのを感じ、慌てて和人に背を向けるように品出しを始めた。
「クリスマスの夜、昨日言っていた友人のイタリアンの店が予約ができたんだ。仕事が終わったら、事務所へ迎えに行くから一緒に過ごしたい。来てくれるか?」
「いいわ。仕事が終わったら連絡くれる?それなら、プレゼントも要るわね。何か欲しいものがある?」
「結花が俺の事を思って用意してくれるなら、どんなものでも大切にするよ。それよりも、朝まで帰さないから、そのつもりで」
「えっ…」
その言葉に驚いて、結花は慌てて振り返った。
「そういう事は、もう少し場所を考えて言って欲しいわ…」
振り返ると、不敵な笑みで立っていた和人の後ろに、配達に来た凌駕がいまの話を聞いていたのか、固まって立っていた。
そして結花は、和人の表情からこのタイミングで配達があるのを知っていて、自分のもとに来たのだろうと確信した。
「あっ、おはようござい…」
「配達ご苦労様。商品はそこのテーブルの上に置いてくれたらいいから」
慌てて挨拶をする結花の言葉を遮って、和人が紅梅屋の配達に来た凌駕に指示を出した。
「は、はい」
凌駕は、想像もしていなかった状況に驚きを隠せず、和人と結花の親密な雰囲気から目が離せなくなっていた。